しあわせの鏡 1回目


「家族みんなが仲良く暮らしたい」

たったそれだけのことが叶わない。

一体、なぜ?

「お宅は“善人さま”の集まりだからでしょう。うちは“悪人”ばかりだからケンカにならないのです」

と、ある人は教えています。

どういうことでしょうか?

心が反転すれば、幸せはきっとすぐそこに――。

そんな「しあわせの鏡」をお届けします。


今回の物語の登場人物は、
不機嫌な主婦・りん子と、なじみの整体師・ましろ先生です。

  • この世で最も不幸な人

“どうして、ああなのかしら”

一人になると、心の中でブツクサ文句を言うのが彼女の習慣である。

買い物袋と同じくらい重たい気分を提げながら、りん子は川べりの公園に差しかかった。

シートを広げて寝そべる若いカップルの脇を通り抜け、まだ五分咲きの桜並木に入ると、見覚えのある初老の男性が、ゆったりベンチに腰をかけている。

「あら、ましろ先生。こんにちは」

「やあ、りっちゃんか」

ましろ先生は、昔なじみの整体・接骨院の先生である。

「どうだい、調子は」

優しい声につい足を止め、りん子の口が滑りだす。

「それが……、聞いてもらえます?

 あの人、代わりにやってあげたのに、お礼の一言もないの!

 いっつもそうなんですよ」


ひとしきり話し終えたりん子に、

「そうかい、それは大変だったのう」。

 ニコニコうなずきながら、先生は言う。

「思えば、かわいそうな人じゃないか」

「かわいそう?」

りん子が問い返す。

「そう。

 ”ありがとう”の心がない人は、

 きっと心がカサカサに渇いてる。

 あるいは、恨みや憎しみで、心がいっぱいなのかもしれない。

 それでは苦しいだけだろう。そうは思わんか」


“まあ、そうかな。
 ……でも許せないけど”

不満げに口をとがらせると、

「やっぱりあれだな。
 鏡がないとな。
 りっちゃんも鏡をのぞいてみないかい」

と先生はつぶやいた。

「鏡?」
「本当の私を映す、しあわせの鏡、だよ」


きょとんとするりん子に、
ましろ先生は話を続けた。

(つづく)

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